スタッフインタビュー企画“MedYou Laboys&Girls”では、若手医療者・医療系学生であるスタッフのリアルに迫っていきます!
「どうして今の進路を選んだの?」「中高生時代の自分に会えたらアドバイスしたいことは?」「MedYou Laboでの活動を通じて何を伝えたいの?」などなど、スタッフの頭の中を深堀りしてきます♪
中高生の皆さんが進路選択する際のヒントになることを祈って…!
第3弾では、会計として運営面でも深く団体に関わってきた、中島菜都美さんが登場!
彼女が医学部に入った動機は実は…?医療の現場に入ってみて感じたギャップとは…?
大学を卒業し、医療者として一歩を踏み出した今だから語れるインタビュー、必見です!!!
インタビュイー:研修医2年 中島菜都美 (以下、「中島」)
インタビュアー:北海道大学医学部5年 網谷史人 (以下、「網谷」)
目次:
~前半~
自己紹介
高校生時代:登山部!実は数学は苦手で…
進路選択:「生物と人間のつながり」を学ぶべく医学部へ。ご縁で見つけた研究医枠。
大学生時代:意外といろんな人がいた医学部
研修医としての現在:忙しいけど充実した日々。学生の時の感覚も忘れずにいたい
今後の進路:臨床と研究の往還を目指して
高校時代の自分に会えたら伝えたいこと:1本道に見えるけど、実は選択肢は沢山ある
~後半~
MedYou Laboのスタッフとして:「前提知識からお話すること・双方向性を意識する」
MedYou Laboの今後について:「医療の世界やそこに関わる人々の生きた声・実際の所をお伝えする」
自己紹介
網谷 : よろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします!
中島 : よろしくお願いします。出身は静岡県です。地元の公立高校を出て、名古屋大学の医学部に進学しました。医学部を卒業後、名古屋で初期臨床研修(※)を始めて、現在研修医2年目です。
※「初期研修」:医学部卒業(≒医師国家試験合格)直後の医師が行う、2年間の研修です。「内科」「外科」「小児科」など特定の専門を決める前に、1カ月~数カ月単位で様々な専門科を移動して勤務します。どの専門を選んでも必要とされる、医師としての基本的な知識・技術・態度を身につける期間です。
網谷 : ありがとうございます! MedYou Laboにも、団体創設時から関わっていらっしゃるんですよね?
中島 : そうですね。大学3年生の時に、当時代表を務めていた林明澄さんに声をかけて貰いました。第1回企画の時はポスター作りなど裏方のお手伝いをさせて貰って、第2回の韮山高校での企画から現地スタッフとして本格的に関わり始めました。
網谷 : そうなんですね~。大先輩とのお話ということで緊張します(笑)。
では、まずは中島さんの高校生時代からお聞きさせて下さい。
高校生時代:登山部!実は数学は苦手で…
網谷 : どんな高校生活を送られていたんですか?
中島 : 学校の校風は「文武両道」という感じで、私も部活と勉強に打ち込んでいました。
部活は、「山岳部」に入っていて、月に1回で山登りに行くんだけど、それ以外の週末や部活がない日も地元の低い山をトレーニングで走ってました。
網谷 : おお、登山部ですか!とっても体力がつきそうですね(笑)
中島 : そうそう(笑)。実際医者になってみて、一番良かったことは体力をつけておいたことだな、って本当に思うよ!
網谷 : 特に思い出に残ってることはありますか?
中島 : 夏の合宿が5泊6日で、塩見岳(3,052m)・間ノ岳(3,190m)とかを渡り歩いたのが一番の思い出かな。標高も高いし、そもそもアクセスが良くはないところだから、一生でもう二度と行けない所に行けたと思う。貴重な経験ができました。
あとは、実は登山って、インターハイもあるんだよね。登る速さ・テントを建てる技術・栄養バランスの取れた食事作り・天気図とかを競うんだけど、私も出場しました。高校の校庭で10分でテント建てる練習したり(笑)、楽しかったなあ。
網谷 : 充実していますね!部活を通じて学べたなと感じることはありますか?
中島 : そうだな…当時は純粋に楽しくてやっていたんだけど、今思えば、「地図に書けるような長い道のりを歩ききった自信」と「体力」が得られたのは大きかったかな。あとは、登山って一番体力がない人にあわせてのぼるから、チームプレーでもあるんだよね。
勉強と部活、どちらも悔いなく、力を入れてよかったかなと思っています。
網谷 : 沢山得るものがあったんですね!
では学業の方はどうでしたか? 勉強は高校の授業を中心にしていたんですか?
中島 : そうだね。高校の授業をペースメーカーに、苦手意識のあった数学だけ追加で個人塾にも通っていたかな。
県内では進学校と呼ばれる高校に通っていて、高校の授業のレベルが十分に高かったから(学校中心に受験勉強ができた)というのもあるかなと思う。ただ、公立だから、どうしても「高3の冬まで全範囲終わらない」みたいな進度の悩みはあったけどね(笑)
網谷 : 苦労した科目とかはありましたか?
中島 : 医学部志望なのに、文系の科目の方が得意で、数学や化学の方が伸びが悪かったんだよね。数学とはどうしてもわかりあえなかった(笑)。
網谷 : わかりあえない(笑)。苦手だった数学はどうやって克服したんですか?
中島 : 実は、数学は苦手だったけどモチベーションが湧かないことはあまりありませんでした。というのも、通っていた数学塾の方針が、「基礎から順に積み上げるのではなく、まずゴールとなる難しい入試問題を見せてそれを解くための武器として基礎問題を出す」というやり方で、これが自分にとてもあっていたんだよね。最終目標がしっかり見えた状態で勉強するから、苦手科目でもモチベーションを維持できたと思います。
あとは、学校の友人とわいわい教えあうのも楽しかったかな。
網谷 : なるほど、最終目標を明確にすると、退屈な基礎練習も苦になりづらいのかもしれませんね。
進路選択:「生物と人間のつながり」を学ぶべく医学部へ。ご縁で見つけた研究医枠。
網谷 : 医学部に行こうと決めたのは、いつ頃、どんなきっかけがあったんですか?
中島 : 進路についてはすごく悩みましたね。実は文系科目もかなり好きでしたし、細菌学や感染症にも興味がありました。生き物に関わる学問ということで、理学部とか獣医学部とか様々な学問を検討する中で、「自分は生物学の中でも、『生物と人間とつながり』に興味があるのかな」という結論に達して、医学部に行こうと決めました。医者になりたいというより、学問的興味から医学部を目指した感じですね。
なので決定時期はかなり遅くて、医学部に絞り切れたのは高3の春だったかな。でも高1,高2の頃の自分は「難しい学部に行きたいと思ったときに、学力が足りないから行けないということはないようにしたい」と考えていて、選びきれなかったことが逆に学力を維持するモチベーションになっていたように思います。
網谷 : なるほど。最初から「臨床医(※)になって患者さんを治したい」というよりは、「研究医(※)になって、学問・人間生物学としての医学を学びたい」という動機で医学部を志望なさったんですね。
※臨床医・研究医:どちらも医師免許を持つ立派な医師ですが、仕事内容が少し異なります。
臨床医は一般的な「お医者さん」のことです。病院で、患者さんと直接関わり、病気を治すことを主な仕事とします。
一方で研究医は、研究室で病気の根本的な仕組みや、そのさらに基礎となる人体の仕組みなどを研究しています。研究を行うことで、今まで治せなかった病気が治せるようになったり、より良い治療法が生まれたりします。
また、特に大学病院などには、臨床医と研究医の両方の役割をこなす医師も多数います。
中島 : そうだね。ただ、正直その後も「医学部に入ったら結局、臨床医にむけて一本道のカリキュラムなんじゃないかな?」とか、「自分が命を扱う医師という仕事についていいのかな?」とか不安はすごくありました。
当時の自分には、現役の医師や医学部生と「実際のところ」を話す機会がなかなかなくて、誰かに相談したいけど機会がないな~と思っていました。この辺りが、大学生になってからMedYou Laboの企画に関わるようになった動機になりましたね。
網谷 : なるほど…そういった原点があったのですね! 医学部の中でも、名古屋大学を選ばれたのは何か理由があったのですか?
中島 : たまたま、相談に乗ってもらっていた学校の先生から、「名古屋大学の医学部に、研究医志望者を対象にした、公募制推薦の枠がある」って教えて貰ったんですよね。
もともと研究が盛んな大学というと、ある程度大きな総合大学に進学した方が良いのかなとは思っていたので、その点でも名古屋大学は良い選択肢でした。
また、学校の勉強を頑張ってきたことが、高校の成績も評価対象になる公募制推薦で生かせるのが嬉しくて。それで、名古屋大学医学部を公募制推薦と普通の一般試験の両方の枠で受験することにしました。
一般枠も受けるつもりで準備していたのですが、結果的には公募制推薦で合格を頂くことができました。推薦入試の内容は、高校の成績・センター試験(※現在の「大学入学共通テスト」)の点数・志願書・面接2回(うち1回はプレゼン)だったかな。
網谷 : たまたま先生に教えて貰って、そんな自分にぴったりな受験枠の存在を知ったんですね。ご縁というか、自分の悩んでいることがあれば、どんどん発信して相談していくのが大事ですね~。
中島 : そうだね。本当に縁に恵まれたと思うよ(笑)
網谷 : 進路選択について、今高校生に戻れるならこうしたかった、ということはありますか?
中島 : 強いて言えば、志望学部が定まっていなくても、もっといろんな大学を見に行けばよかったかなとは思います。実は大学ごとに強い研究分野とか違ったりもするので。オープンキャンパスとか積極的に行ってみると良いですね。
大学生時代:意外といろんな人がいた医学部
網谷 実際に医学部生になってみて、高校時代の想定と、異なる部分はありましたか?
中島 そうですね、まず思った以上に医学部は取る授業の選択の余地がなくて、いわゆる大学らしい「自分で授業を選べる」機会は予想以上に少なかったかな。また授業の中身も、やはり基本的には臨床医を育てる環境なんだなとは思いました。
網谷 確かに。医学部は意外と高校の時と感覚変わらないですよね(笑) 毎日、同じ時間に最初の授業があって、事務の方が組んで下さった時間割通りに、どの授業も同じ友人たちと受けて、同じ時間に最後の授業が終わって、放課後は部活かバイトに行って、みたいな。
中島 そうそう(笑)
あとは同じ学部の友人たちと接する中で、良い意味で、医学部というのはハードルを高く感じすぎずに入って良い場所なんだなと思いました。医療へのモチベーションがとんでもなく高い人や、すごく頭が良い人は、勿論一定数はいるんだけど、そういう人ばかりではないというか。
逆に言うと、医学部に入ったものの医療へのモチベーションを見つけられず苦しんでる人や、理系科目が得意だったから医学部に進んだものの医学部特有の大量の暗記物で苦しめられてる人も少なからずいました。
網谷 たしかに。医学部入試で求められる理数系の能力が、医学部で要領よく試験を突破して進級・卒業していく能力と必ずしも一致しないというのはありますよね。医学は学習段階では、文系よりの学問というか。
中島 うん。個人的には、最終的にちゃんと卒業して患者さんに良い医療を提供してさえいれば、いろいろなモチベーションが認められて良いとも思うし、卒業して医師になってからは数学的な論理のセンスが必要になる部分も沢山あるように感じるから、それが悪い事とは思わないけどね。
網谷 なるほど。良い悪いではないけど、求められる能力の違いを認識した上で入学するに越したことはない、という感じですね。
中島 MedYou Laboの活動で伝えたいと思っていることの1つですね。
もっとも、高校生の時には存在すらしらなかった面白い学問分野に会えたことなど、「良い想定外」も沢山あったので、大学生活の全てを見通して入学する必要もないとは思うんだけどね。
研修医としての現在:忙しいけど充実した日々。学生の時の感覚も忘れずにいたい
網谷 現在、お医者さんになられて2年目ということですが、率直な感想を聞かせて下さい。
中島 忙しい、というのは覚悟して就職したことなので、予定通りという感じかな(笑)。思った以上に発見が沢山あって、日々吸収することがあって、楽しいです。これから医者になる人にはビビらず楽しんでほしいです。
網谷 医学部生として病院実習(※)する中で感じていたことと、社会人になって実際に医師として病院勤務する中で感じることとで、異なることはありますか?
※病院実習:医学科では5-6年生になると、講義室を離れ、病院での実習授業があります。実際に病院の中に入り、社会人医師の働く様子をすぐそばで学びます。
中島 学生の時に見えていた医療の現場とはやはり全然違いますね。自分がどんどん医療者の考えに染まって、学生時代の感覚を忘れて行っているのがわかるというか。その中には改善すべき点(学生時代の感覚の方が正しいのかもしれない点)もあるので、学生時代に一度、医者でも患者でもない中立的な立場で医療現場を見る機会があることは価値があったなと、改めて感じます。
網谷 例えばどのような点でしょうか。
中島 例えば、年配の患者様にいわゆる「ため語」というか、フランクに話しかける医療者っていない?
網谷 いらっしゃいますね(笑)
中島 そうそう(笑)。私はこのことに、学生として病院実習していた時にはすごく違和感を持っていたんだよね。ところが、今自分が医療者になってみると、ふとした瞬間に、自分も年配の患者様に敬語なしで話しかけちゃってたりするんですよ。
「心の深い所で自分が『教えてあげる側』だと思ってしまっているのかな」とか「患者様との『心の距離を詰めて、親しみやすく感じてもらう方法』として、無意識にため語を使ってしまうのかな?」とかいろいろ原因を考えちゃいますよね(笑)
こういった所は、学生時代の意識を忘れずにいたいと思います。「親しみやすいけど敬意の伝わる丁度よい言葉遣いはどんなものか」とか、研究のし甲斐があるところですよね。
網谷 患者でも医療者でもない、中途半端な学生の立場からしか見えないものがあるんですね。
中島 うん。特に医者と患者のミスコミュニケーションは、実は医学生として病院を回っているときが一番よくわかるかなと思います。そのミスコミュニケーションを改善するにはどうしたらいいのか、というのが1つの大切な研究分野としてあったりします。
加えて、実は私は「そもそもなぜ医者/患者はそういう言動をするのだろう?」というシンプルな現状の分析の部分に興味があったりします。こちらは、医療人類学・行動経済学という学問分野の1つにあたるのかな。
網谷 非常に興味深い分野ですね!
今後の進路:臨床と研究の往還を目指して
網谷 現在、研修医2年目の春ということで、そろそろ来年からの専門(※)を決めていく時期ですよね? 今後の進路について、何か考えていらっしゃることがあれば教えて下さい。
※医師の専門:医師は、最初の2年間の初期研修を終えた所で、専門(「内科」,「外科」,「小児科」,「精神科」,「皮膚科」など)を決めます。3-4年ほどかけて各専門医の認定を取ることが、次の目標となります。この専門医の認定を取る途中の医師を「専攻医(後期研修医)」と呼んでいます。
中島 今のところ産婦人科に進む可能性が高いと感じています。今後研究をするにしても、最低限臨床ができるようになってからと思っているので、とりあえず専門医を取るくらいには臨床を続けたいですね。
さらにその先どうするのかは悩んでいる所なんだけど、将来的に「臨床で見つけた課題を社会医学(※)的なアプローチで研究して、今度は研究の結果を臨床現場で活かしていく」といったことができるのが理想かなと思っています。 社会医学の中でも統計というよりは、人文的な分野に興味があるので、患者さんと接する機会・実際の医療現場に身をおく時間は持ち続けたいかな。
※社会医学:医学をベースとしながらも、経済学や統計学などといった他分野の視点をとりいれて、「社会の仕組み」としての医療を研究する学問分野です。1人1人の患者さんに注目するのではなく、患者さんたち・医療者たち・健康な人々の、集団としての傾向の分析や問題解決に重きをおきます。
例えば、人々の特定の性質(職業・性別・年齢など)と病気の起こりやすさの関係を調べたり、法律や税金を使って病気になりにくい仕組み・病気になっても困りにくい仕組みを考えることは、社会医学の1つの例です。
網谷 素敵な進路ですね。応援しております!
高校時代の自分に会えたら伝えたいこと:
1本道に見えるけど、実は選択肢は沢山ある
網谷 前半の最後に、「高校時代の自分に会えたら伝えたいこと」を教えて下さい。
中島 私は高校の時に、進路選びでとても苦しんだのですが、その結果選んだ道で現在楽しくやれています。「悩んだら悩んだだけいいよ!」ということを伝えたいですね。
また、当時一番怖かったのは、選んだらもう一本道で、後戻りできないのではないかということでした。ですが、実際には医師免許を取ってからも沢山の選択肢があるのだと、社会人になった今感じます。高校の時にある方に頂いた「1本道に見えるけど、実は選択肢は沢山あり、見えている道が違えば引き返して別の道に行けばよい」という言葉を今度は自分が伝えたいですね。
網谷 ありがとうございました!
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